水曜文庫の日記 Tel:054-689-4455

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「oak」の棚

先日、フリーキー・ショーという静岡のライブハウスに友部正人を聴きに行った。もう始まるというぎりぎりに着いてビールを飲んでどこに座ったものか辺りを見回すと目が点になった。楽屋のすぐ前の椅子に友部正人が背筋をぴんと伸ばして手をひざに載せちょこんと座っている。こんなことをいうと怒られるかもしれないが、まるで有元利夫が描いた人のよう、そこだけ空気が冷えていた。
「静謐」ということばにその姿を思い出した。確かに気軽には声をかけることのできないその姿には「静謐な佇まい」とはまた別に社会や人間に対する怒りも立ち上っていたけれど、それも静かなる怒りのようなものだったと思う。

本棚はその人を現すというけれど、図らずも店のなかに静謐な本棚が出来上がってしまった。
静岡市伊勢丹というデパートの裏手にある「oak」という喫茶店がこの五月で閉店をして、そこに置いていた本を水曜文庫で引き取ることになった。持ち帰って並べてみて、「これはだめだ」とため息が出た。もう一度マスターの海野さんに連絡をして、ばらばらに棚の中に入れ込むのではなく、「oak」の棚を作ってまとめて置きたいとお話をさせてもらった。看板や小物も借りてきて一緒に並べた。

「静謐」といってもただシンプルなことをいうのではない、と思う。いろんな調度品がごちゃごちゃ置いてあるんだけれど落ち着ける場所、つまり「oak」みたいな場所ということになるけれど、それがむつかしい。本も同じで、同ジャンルの本ばかりでは面白くないし、その棚を作るむつかしさは書店員たちが毎日考えてもなかなかできるものではない。海野さんは、「新聞の書評欄を見て選ぶんだよ」と教えてくれたけれど、書店員だって新聞の書評くらいは読む。それでもむつかしいのだ。
海野さんは「よくも飽きもせず28年間毎日毎日同じことをやっていましたよね」とまるで人事のように店の運営について話されていましたが、日々同じことをして、その繰り返しのなかに前の日との差異を感じながら暮らすことができるかどうか、そういう厳しい認識がこういう本棚を形作るのだと、お話を聞きながら思いました。まったく開店五ヶ月でルーチンに陥りそうな自分には真似のできないことです。

1985年11月3日より始められて28年間。この三月からシャッターが閉まったままになって「どうしたんだろう」という声を何人かの人から帳場で聞きました。うーん、少し荷が重い気もするけれど、懐かしみに本を見に来てください。女性向けの雑誌のBNもあります。文房具も少しあります。ショップ・カードはたくさん揃っていますので持っていって下さい。